誣告の伝兵衛。≪小説・新連載vol.36≫

僕ちゃんは、刺された。

背中をぶっすりと。

いつものように、あの野郎をからかうため、ラウンジのいつもの指定席であるテーブルに座った瞬間であった。

僕ちゃんは、すぐにほほえみながら、後ろを振り返った。

すると、見たこともない、老人であった。

そう、伝兵衛である。

誣告の伝兵衛。≪小説・新連載vol.34≫

最近図書館ラウンジ内で大ブレイク中の僕ちゃんの生態を特集したい。

僕ちゃんは、ホモだ。

完全なるホモだ。

ホモのホモ。

ホモ中のホモだ。

彼氏は、同じ法人に通う、ツバメの巣張りの超天然パーマの色黒の30歳の男。

その彼氏に、「図書館の利用者にとんでもない馬鹿かいるぞ、だから『俺のお前』(ベッドでの呼び名である)、あいつを監視して来いよ。な、な、な。」と言われ、批判能力が一切なく、そのまま「うん。」と受け入れた。

僕ちゃんは、忙しい。

15時に図書館ラウンジにやってきて、まずは、図書館入り口前の円卓テーブルにお気に入りのピンクのビニールのバッグを置く。

そして、自習室内で必死に勉強しているあいつを馬鹿にするため、あいつをにやにやにやにやほほえみながら覗き込む。

にやにやにやにや。

一言でいうと気色が悪い。

でも、そんなことはオカマいなし。

法人内の作業リーダーであり、かつ、彼氏でもあるツバメの巣に言われたんだから。

そして、覗き終わった後、一目散に螺旋階段を下りて、1階に行く。

1階では図書館利用者以外の人たちがたくさんいるから恥ずかしい。

そこで、必ず両手を顔の前に置く。

口はぽかんと開け、両手の10本の指を全て限界まで開きながら、顔を隠すために覆う。

でも、指を全開に開いているから、すれ違う人たちには顔が丸見えである。

そして、駐輪場にダッシュで向かい、さび付いた子汚い自転車に飛び乗り、早漕ぎで一目散に家に帰る。

家に帰ると、決まって、お母さんに、怒られる。

「あんた、また、図書館行って、他人様にほほえんできたのかい。あんた、刺されるよ。あんたが言ってた、その勉強してるっていう人に。馬鹿なことしてると。」

穏やかじゃないですよ、お母さん。

お母さんの言っていることを、ほほえみながら、でも、不思議そうな顔をしながら聞く僕ちゃん。

そして、晩酌中のお父さんに、決まって、ホモもとい芋焼酎のロックのグラスを僕ちゃんの頭からかけられる。

「お前は本当に。本当に、お前は。人様に迷惑ばっかりかけて。馬鹿みたいな顔しやがって。」

まぁまぁ、お父さん。

「お前は、少し落ち着け。いいか。お前になんてな、誰も興味ないから。いいから落ち着いて勉強しろ。」

正論のセイロン島ですよ、お父さん。

「すべてお前の勘違いだ。いいか。お前の言っている人は、勉強しているだけだから。お前は長時間勉強したことないだろ。いいか、長時間勉強していると疲れるんだ。だから、休憩することもあるんだ。わかるな。だから、お前にかまっているわけじゃないんだ。お前は、自習室に入ることを怖がっているから、だからラウンジで勉強しようとするんだけど。そもそも、ラウンジというのは、休憩する場所だからな。お前みたく、勉強するところではないんだ。わかったな。この馬鹿。被害妄想の房総半島だ。お前は。」

ヒートテック着ながらヒートアップしないで、お父さん。

ただ、僕ちゃんは、お父さんに心底嫌われたくなかった。

だって、お父さんに嫌われてしまったら、ご飯を食べられなくなることを本能で知っていたからだ。

僕ちゃんは、童貞だ。

完全なる童貞だ。

チェリーのチェリー。

チェリー中のチェリーだ。

一度、先輩である、馬鹿でっかい背丈のネズミみたいな顔をした悪い先輩に、無理やり誘われ、ヘルスに行ったことがある。

その時、相手のヘルス嬢に言われるままいろんなところをまさぐってみたが、やることなすこと全てについて、ヘルス嬢にため息をつかれたという。

僕ちゃんは、元気だ。

元気いっぱい。

あの野郎が自習室から出てくるのを絶えずうかがっている。

僕ちゃんの座っているテーブルからは、あの野郎が座っている席のちょうど足元が見える。

あの野郎が席を立つ瞬間を抜け目なく、見逃さない。

あの野郎が自習室を出た瞬間、螺旋階段横の広告が置いてある棚に勢いよく飛びつき、あの野郎の顔をにやにやにたつきながら見ながら、広告を探すふりをする。

そうすることが、あの野郎に対する侮辱行為だと思っている。

あの野郎をからかっているんだと、信じている。

僕ちゃんは、汗臭い。

完全なる汗臭だ。

汗臭の汗臭。 

汗臭中の汗臭。