あの日の夜の戸山「公演」~Season Minus One~
「100メートルコンビニ」からの「好き 好き 好き」。
シアターの女神はいつだって、女の子に、「近キョリ恋愛」と「遠キョリ恋愛」を同時に与える。
アイドルから「普通の女の子」になった、あの日の夜。
待ち合わせの約束。
遅れないように、でもばれないように。
息を止めながら、ホテルの自室のドアをそっと閉める。
そして、アイドルに戻るための大切な「鍵」を預けるため、フロントに行く。
フロント係の「行ってらっしゃいま・・・」の語尾の喰い気味で、一目散に待ち合せの「公園」へと駆け出す。
僕らのデート場所は「公演」だが、キラキラと輝く女の子のデート場所はいつだって「公園」。
2人だけのシアター「公園」デビュー。
とびっきりのおしゃれをしよう。
ふわっふわの黄色のフレアスカート。
見てもらいたかった。ただ、かわいいって言ってもらいたかった。
そして、速報結果にいたたまれない気持ちになった弱い自分を、ただただ、慰めてほしかった、ただただ、忘れさせてほしかった。
王道アイドルの復権。「恋愛禁止条例」の再確認。
確かに僕らは、清純回帰の余韻に浸っていた。
女王のガウンは、「恋愛禁止条例」をストイックに遵守してきたものだけが纏うことができるのだと。
これを、ヲタの「仮想現実(マトリックス)」という。
そして、お祭りが終わった今、やっと、推す推さないといったケチな2者択一ではなく、個々のメンバーの公演パフォーマンスを観ることに集中できる、そう思っていた。
しかし。僕らはいつだって、つらい現実に引き戻される。
やっとの思いで公演に当たった僕らは、まるでスキャンダルなんて一切なかったかのようなふりをして、声援を送る。
これを、ヲタの「良心(コール)」という。
でも、好きな男の子にしか見せない、あの幸せそうな笑顔を見ちゃうと、しょうがねぇかとも思っちゃう。
ええぃ。もう赤飯炊いちゃおうかな。
これを、ヲタの「やせ我慢(ハードボイルド)」という。
仮想現実、良心、やせ我慢。これらオタの魂がないまぜになったもの、それがMIXだと、僕は解する。
それに、王道アイドルの復権「前」の事態だ。
許す代わりの、交換絶対条件。
それは、撮られた笑顔の倍返しの笑顔での、「めんたいこ」。
KⅣシアターの女神「公演」で見せてください。
それが、僕らにとって、君のあらん限りの誠意であり、彼に対する唯一の優越感。
いつだって単純な僕は、そんなことをしてくれるだけで、いいよと思っちゃう。
たしか、ユニットは「嵐の前の静けさ」ではなく、「嵐の夜には」。
そう、「神様を恨んでみたところで 過去は過去でしかない」のだ。
そうだった。前しか向かねえ優子を送り出したばっかりだった。
公園にいる首に鈴を掛けられてない猫を2人でいじっちゃう、そんな君の処分を夢に見るとコールしてしまったら僕たちの関係はどう変わってしまうのか、僕なりに何日か考えた上でのめちゃめちゃ生ぬるい結論のようなもの。
然もあらん。
「鈴掛けなんちゃら」。