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誣告の伝兵衛。≪小説・新連載vol.1≫

おらは毎日図書館に通う。

外せない日課。

誣告の伝兵衛。

おらは、そう呼ばれている。

気に入らないやつは、誣告する。

誣告とは、刑法第172条の虚偽告訴罪における捜査機関への虚偽告訴のことではなく、図書館に置いてある意見箱に真偽のほどをろくに確かめもせず感情の赴くままに投書をすることだ。*1

とにかく、図書館に置いてある意見箱には、気に入らないことがあるたびに、投書してやる。

おらの誣告は、おらの心のプラカードなんだな。*2

図書館の自習室で、30分ごとに休憩する馬鹿がいる。

そいつが席を立つ頃を見計らって、そいつを睨んでやる。

また、おらの席の左側の窓が鏡張りになっているのを利用して、あいつが何か怪しい事をしないか確かめるために、左側におらの小さな体を向ける。

そうすると、右端に座っているあいつから見ると、ちょうどおらがあいつに背を向ける格好になる。

これが、気持ちいいんだ。実に心地いいんだ。あいつへの優越感に感じるんだ。

それに、聞こえるか聞こえないかぐらいの音で、舌打ちをしてやる。*3

ちょうど舌なめずりをする感じで、ちぇっちぇ、ちぇっちぇとな。

それに加えて、「へっへっへへへへへへ。」と、一人笑いもな。

いったい、なんで30分毎なのだ。

全くもってわからん。

絶対怪しい。

席を立ってどこに行くんだと思って、おらの嫁(65歳)に張り込みと尾行をしてもらった。*4

あいつが席を立った後すかさず、おらのガラパゴス携帯で外で待ち構えているおらの嫁にメールを送る。

しっかり前もって文面を用意しておくことがみそだ。

ちなみにメールの文面は、「あのバカ、席を立ったぞ。抜かりなくだぞ。」だ。

嫁には帽子をかぶせて変装させ、あいつの前を通るときは顔ばれしないように、帽子が風で飛ばないようなしぐさをして手で顔を隠すようにと言ってやった。

鶏を割くに焉んぞ牛刀を用いんってやつだな。

ぼろぼろの出刃包丁で十分だ。

あっ、ということはおらの嫁に失礼か。

まぁ、いいや。

そしたら、なんと外の喫煙スペースで煙草をふかしてやがるというじゃねぇか。

だから、おら、こいつを投書してやった。

席に本を置いたまま、タバコを吸ってやがるって。

まぁ、悪いことではねぇけど、タバコを吸わねぇおらにとっては目障りだからな。

この前はおらの知り合いに、あいつがタバコを吸っているところを近くからサングラスをかけ凄むようにあいつを睨み続けるように頼んだ。

そしたら、平然とした顔をしてタバコを吸ってやがったとよ。

全く大した霊だ。

またこの前なんか、自習室で、おら、あいつを30分たったぐらいで睨んでやった。

そしたら、睨み返してきやがった。

そして間髪入れずに、ヨン様のように、すぐ満面の笑みで微笑まれた。

あいつ、おらが誣告したことを気付いているのか。

いや、そんなことはねぇ。

あんなやつにばれるわけがねぇ。

だって、あいつの馬鹿さ加減をクローズアップした、おらの心のルーペにぜってぇ間違いはねぇからだ。

まぁ、最近では、おらの誣告の成果が実って、図書館近くの役所の職員までがあいつがタバコを吸っている姿を見に行っているみたいだな。*5

出前一丁の出前坊やみたいな顔をしたある男性職員なんか勤務時間中に仕事そっちのけでタバコ休憩を装ってあいつの一服の様子をうかがってやがるというじゃないか。

間が抜けているというかなんというか、その職員、首から職員証をぶら下げながら。

まぁ、役所の職員が外の喫煙スペースでタバコを吸っちゃ、それはそれで地方公務員法違反だけど。

だから、おらの誣告を真に受けたその役所職員をも投書してやった。

敵の敵は・・・やっぱり敵だな。

おらさえ生き残ればそれでいい。

また、昼の休憩時には、うわさを聞き付けた、なめこみたいな顔をしたある胴長歎息もとい胴長短足で、渡りの大きなぶかぶかの白のスーツパンツのしかめっ面で眼鏡の男性職員なんかはわざわざ自習室に入ってきてiPhoneをいじるふりをして動画で盗撮してやがったり、また例の出前一丁なんかは本当に勉強しているかどうかを確認するため寝たふりをこいてちらちらあいつの様子をうかがってやがるというじゃないか。

それに、四角い銀縁眼鏡をかけた、襟がよれよれの緑色がかった黄色のネオンカラーのポロシャツを着てブルージーンズを履いた、50代半ばの色黒の刑事までが、あいつが閉館間際に出てくるのを閉館1時間前から2階ラウンジで待ち受けているというじゃないか。

あいつを尾行するために、わざわざ他府県のナンバーを付け替えた、白色のスカイライン(9319)を駐車してな。

それに、白と緑のボーダーのポロシャツを着た別の刑事は、もう4年近くも、シルバーのバン(8767)で尾行してるんだってよ。

おいおいおい、それに。

日曜日には、あいつを監視するために、わざわざ女の刑事を2人も派遣させているってよ。

ひとりは、ビーチで着るような場違いなワンピース。

もう一人は、キャバ嬢の休日ショッピングみたいな白のTシャツ・黒のフレアスカート

男とデートをしなければいけない年なのに、上司に言われ仕方なく日曜日にあいつの監視をしなければいけないなんて。

そして。そして。よ。

せわしない動きのロングスカートの女は、1階の喫茶店の関係者なんだとよ。

喫茶店からは、あいつが外の喫煙スペースでタバコを吸っている姿が丸見えでよ。

それで、あいつが喫茶店の様子を見ているんじゃないかと不安で、あいつを監視しているんだとよ。

トチくるってやがるな。

全くどいつもこいつも。

おらの誣告を真に受けるなんて。

くそ野郎だ。全く。

そしてよ。

自習室を利用する高校生たちも、あいつを張り込み・尾行してるんだってよ。

○○東高と○○西高のセーラー服のしょんべん臭いガキが、あいつの横に座り、あいつが帰ると友達に電話してあいつを尾行するように連絡するんだとよ。

なんでもそのガキどもは、中学生の時自習室で騒いでいたのをあいつに注意されたことを恨んでの鬼畜の所業なんだとよ。

AKBの中で努力に努力を重ねてひたむきに頑張っている女子高生もいると思えば、こんなくそ田舎で嫌がらせに明け暮れている女子高生もいる。

こんなことやってる奴が、どうやってセンター試験で8割を取れるんだ。

情けねぇな。全く。

だから、おら、そのガキどもも投書してやった。

そのガキどもの高校や教育委員会にもな。

敵の敵は・・・そう。敵だからな。

おらさえ生き残ればそれでいい。

これからも、あいつが来るたびに、トイレ休憩を装って、誣告をし続ける。

人生の集大成を迎えたおらには、怖いものはねぇんだ。

おらの鉄のような意志に、勝てるやつはいねぇんだ。

こんど、あいつの帰りを車で待ち伏せして家まで尾行してやるかんな。*6

おらの車は、真っ赤な4輪駆動。

 

おらは、開館時間の

9:30に入り、

11:20にトイレ休憩をし、

11:50に昼飯の支度をして、

12:00にラウンジにつき、

12:10に食い終わり、一目散に図書館内のソファに駆け込み、

12:50にトイレに行き、

13:00に自習室に戻り、

15:20に帰り支度をし、

15:30に図書館を出る。

これが、おらのヘビーローテーション

まぁ、定刻主義者なんだな。

うまいこと言ったな。*7

えへん。

昼飯休憩のときは、必ずおらの指定席を占有するために席の上に、落書きをしたよれよれのこ汚い紙を置く。

そうしておけば、気味悪がって誰もおらの指定席に座らねぇだろ。

まぁ、亀の甲より年の功ってやつだな。

たまによぉ、朝来てみたら、無礼にもおらの指定席に座ってる女子高生がいるんだよな。

そういう時は、自習室にその女子高生と2人きりなのに、そして他にもたくさんの席が空いているにもかかわらず、その女子高生の間後ろの席に座る。

ぴったりと張り付く感じだよな。

そして、プレッシャーをかけ続ける。

そうすっと、その女子高生はおらのただならぬ空気を感じ取って1,2時間で帰ることになるよな。

そしたら、昼飯休憩までは動かずじっくりと待ってよ。

昼飯休憩の11時50分になったらおもむろによぉ、昼飯の準備を装って何喰わぬ顔をして例のこ汚い紙をおらの指定席の机上に置く。

えっ、その女子高生が帰った後すぐにおらが動かないのはなぜなんだって?

それはよ、お前を食べるためだよ。

あっ、違うさぁな。

あいつにおらの器の小ささがばれるからだよ。

まぁ、70のダンディズムだよな。

チェリーボーイなんだけどな。

とにかくこれで、おらの浸食が完了することになる。

その席におらの主権が及んだことになるんだな。

 

昼飯は、食事禁止のラウンジでとる。

決まって食パン3枚。

いちごジャムは持参。

一袋に6枚切りが入った98円のやつだな。

なんということでしょう。

1日3枚ずつ喰えば、ちょうど2日分喰えるんだよな。*8

まぁ、亀の甲より年の功ってやつだな。

あっ、2回目か。

喰い終わったころには、テーブル、椅子と床にまでに食パンの粉が飛び散っている。

しかし、そんなことはおら全く気にしねぇ。

だって、おらには全く関係ねぇからだ。*9

むしろ、ざまぁ見ろと思う。

そんなもの誰が拾ってやるか。

たまに、おらの生きた証を残すために、食パンの袋を閉じる青色のプラスチックのやつあるさぁな、そいつ*10をわざと床に落としてやることもする。*11

 

おらは席を立つときは必ず、自分が読んでいる大切な巻物を盗まれたくねぇからいちいちビニール袋に入れ何重にも縛って閉じる。

そして、リュックに入れる。

これら一連の所作は、おらにとっては、アライグマが必ず手を洗うように、至極当然の行為なんだな。*12

他の自習室の利用者はもちろん、外の廊下の遠く離れたところでも、ビニール袋に入れ縛っているときに生じる、あのシャワシャワシャワシャワという音が聞こえている。

でもよ、そんなのおら全く気にしねぇ。

だって、おらには全く関係ねぇからだ。

おらの存在感を示すには、ちょうどいいSE*13じゃないか。

おらだけのオリジナルなSEだ。

心地いいよな。

他の奴らはこのSEを聴いて、どんな気持ちなんだろうな。

イライラしてんだろうな。

おらの威圧。

おらの気圧。

おらのヘクトパスカル

おらへく。

いや、なんか、違うさぁな。

おらへくパス。

いや、これも、違うさぁな。

おクトパス。

おっ、これだこれだ。できたぞ。

お前さんたちいいかい。

これからは、おらのシャワシャワシャワシャワというSEのことを「おクトパス」と呼んでくれよ。

よぉっ。色男。

って、おらが図書館内を歩くたびに、言ってほしいよな。

 

おらはトイレに行ったら出るときは必ず、水道の蛇口を少しだけひねり水をちょろちょろ出しっぱなしにしておく。

おらのイライラを解消するための最善の処置だな。

以前は大量の水を出しっぱなしにしていたが、あいつにばれたら嫌だからな。*14

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:やりすぎると、業務妨害罪の構成要件に該当すると思われる。

*2:2014選抜メンバーに謝っていただきたい。

*3:いい年をこいて全く。

*4:やりすぎると、図書館利用者に対する行動の自由を侵害する。伝兵衛は、民法709条に基づく不法行為による損害賠償を請求される可能性がある。

*5:刑法学では、伝播性の理論というものがある。名誉棄損罪の可能性が出てきた。

*6:やはり、行動の自由を侵害する行為である。

*7:「定刻主義者」という言葉は、既に、刑事法学の大家である中山研一さんが『定刻主義者の歩み』(成文堂、2007年)という自伝のタイトルに用いている。伝兵衛の勉強不足である。

*8:老婆心ながら。6枚÷2日分=3枚ずつ。

*9:関係ないことは無い。伝兵衛が食パンを食わなければ、食パンの粉が飛び散ることは無いのだから。

*10:バッグ・クロージャー」のことを言っていると思われる。

*11:他にもやりようがあるはず。それに、清掃員に拾われたら終わりだ。

*12:アライグマは、視覚があまりよくないため前足を水中に突っ込んで獲物を探る姿が手を洗っているように見えることから、その名がついた。そのため、アライグマは、手を洗っているわけではない。

*13:老婆心ながら。伝兵衛は、Sound Effect(効果音の意)を略している。

*14:既にばれている。