誣告の伝兵衛。≪小説・新連載vol.3≫
どうも。最近、アギーレ監督にクリソツと言われているとか言われていないとかでおなじみの、おらだ。
最近あいつが挨拶してきやがる。
この前、あいつが「おはようございます。今日も降ってますね。」ときやがる。
おらは、当然無視する。
そしたら、「私は資格試験を勉強してますが、何を勉強されているんですか?」ときやがった。
おらは無性に腹が立った。
おら 「おまえ、なんだその口の利き方は。」
あいつ「わたしは挨拶をしているんですよ。」
おら 「おまえ日本人じゃねぇな。日本人ならそんな口の利き方はしないはずだ。ベンガル人だな。」*1
あいつ「それは、暴言ですよ。」
おら 「へっへっへっ。何言ってやがる。」
あいつ「暴言ですよ。」
おら 「面白い男だな。朝から何言ってるんだ。」
あいつ「暴言ですよ。」
3週間後。
おら 「お前ベンガル人だな。」
あいつ「!?」
おら 「おかしな男だな。ベンガル人だな。」
あいつ「え?」
おら 「なんだお前聞こえないのか?」
あいつ「耳栓していますので。」
おら 「お前ベンガル人だろ?」
あいつ「ここは公の施設です。公の施設で、人の出自に関して事実に基づかない形でおっしゃるのは、刑法の侮辱罪が成立しますよ。つーか、ベンガル人って。」
おら 「なんだ。しゅつじって?そんな言葉はねえぞ。」
あいつ「出自とは、生まれ、もしくは、出生に関すること、という意味です。」
おら 「わけのわからないことを言うな。口答えをするな。俺は、お前より年上なんだぞ。おまえ、ベンガル人だな。」
あいつ「事実に反していますよ。何回ベンガル人って云うんすか。それにそもそも、ベンガル人って何すか?」
おら 「じゃあ、おまえ日本人なのか?」
あいつ「ええ。」
おら 「おれはなぁ、むかしなぁ、ベンガル地方で10頭のトラ*2に顔中をしつこく舐(ねぶ)られたことがあるんだ。なのに、近くで見ていたベンガル人は誰一人俺のことを助けてくれなかったんだ。だから、お前もベンガル人じゃねえのか?」
あいつ「違いますよ。そもそも、何言ってんすか?三段論法がめちゃくちゃじゃないですか。それに私を舐めているのはあなたでしょ。」
おら 「この話はもう終わりだ。」
あいつ「自己完結ですか?ベンガル人漫談、ということでよろしいですか?今度その話もう少し詳しく聞かせてください。そもそもどういう経緯でそういうことになったんすか?」
翌日
おっ。
あいつが来なくなったな。
やはり、いちかばちか、あいつを怖がらせてやったからだな。
これで、もう、あいつは自習室に入れなくなっただろ。
あの野郎のいう通り、出自って言葉、本当にありやがったな。
くそぉ。おらに恥をかかせやがって。
まぁいい。
もうこれで、俺を怖がらせるやつはいない。*3
そういや、最近すっかり寒くなったな。*4
ふぅ~、かぁ。
*1:伝兵衛には、侮辱罪が成立する。あいつは、その日のうちに告訴をしたとのこと。
*3:あいつは図書館の司書の方と連絡を取り、1か月間伝兵衛がいる間は自習室に入らないことを約束していた。1か月後、小雪が舞う中、伝兵衛は、虚偽告訴罪(あいつがおらを尾行するという虚偽)・暴行罪(勉強しているあいつを殴る)・侮辱罪(あいつに対してお前は朝鮮人だなと公共の施設のなかで言った)・器物損壊罪(あいつの本に落書きをした)・威力業務妨害罪(図書館のなかで利用者に対して威張り散らし、ラウンジのテーブルを汚したことなど)で逮捕される。
*4:もう11月間近だというのに、春物のチェックのシャツに、寒そうな薄っぺらい春物のヤッケを着ているのだから、当然である。