誣告の伝兵衛。≪小説・新連載vol.4≫

おいおい。

あいつ、いまだに来てやがるじゃねぇか。

何にもおらの事恐れていないじゃねぇか。

隣の資料室に、いやがる。

あの野郎。

そうだ。

警察に、通報してやれ。

あいつがおらのことを追い回して来ると。

 

翌日。

伝兵衛の通報を真に受けた、いや、真に受けたふりをした刑事が3人、図書館をマークする。

一人は、丸坊主で細身の50代後半、色白。

黒のトレンチコートに、黒の毛糸のつば付キャップ。

その姿はまるで、防寒ばっちりのばかでっかいアルパカだ。

その日、伝兵衛は、ある策を講じた。

いつもは2時50分に帰り支度をし始め、2時55分に図書館を出る。

しかし、その日は、2時40分に例のシャワシャワシャワというはた迷惑な騒音を出しながら、隣にいるあいつに帰り支度をしていることをわざと知らせ、2時45分に図書館を出た。

あいつが尾行するのを待ち構えるために。

そのことは、トレンチコートの刑事に伝えてある。

 

ところが、あいつは、そんなことは百も承知だった。

伝兵衛のやることなすこと、全てを見切っていた。

上には上がいることを、田舎をどさ回りするだけの人生を歩んでいた伝兵衛は知る由もない。

井の中の蛙にすぎなかった。

それにそもそも、あいつは、ただ勉強をしたいがために図書館に通っているにすぎない。

あいつは、もう5年も図書館に通っている。伝兵衛は、まだ1年そこそこにすぎない。

あいつがおらを追い回してくるという、伝兵衛の主張は、全く信憑性のない、でたらめの被害妄想に基づくものであり、伝兵衛による虚偽の告訴によってあわよくばあいつが逮捕されるのではないかという淡い期待によるものだ。

当然、伝兵衛には、虚偽告訴罪が成立する。

晩節を汚すとは、このことをいうのであろう。