誣告の伝兵衛。≪小説・新連載vol.5≫

よっ。久しぶりだな。おらだ。伝兵衛だ。

おら、今年はセンター試験は受け控えだ。

だってよ。自信ねぇからな。

それに、そもそも、センターの過去問自体をやったことねぇもんな。

センターの過去問は、おらの敵だ。

過去問は、やっぱ過去だけあって、やだな。

過去に向き合いたくねぇもんな。

おらに未来はあんのかな?

おい、未来問ってねぇのか?

あっ、そうか。

過去問をやることで、未来問が見えてくんだ。

おい、おらは今哲学をしたぞ。

まっ。おらのかぁちゃんには、今年、センター試験うけるっつって、家を出たけどよ。

まっ、かぁちゃんへのせめてもの罪滅ぼしに、いつものように、図書館に行ってやったな。

そして、今日も、おらの昼休憩の終わる12:55分に、トイレの洗面台に粉を振りかけてやったぞ。

真っ黒い粉だ。

気持ちいいよな。

公共の施設をよごしてやるってのは*1

 

それにしても、あの野郎、まだ来てやがる。

あんなけ、脅してやったにもかかわらずだ。

あの野郎。

今日なんか。わざと、自習室のドアを思いっきり開けてやり、脅してやった。

ざまぁ見ろってんだ。この野郎。

他の利用者もいたけど、そんなのかんけぇねぇな。

よし、今日も誣告だ。通報だ。

いつものように、伝兵衛の通報を真に受けたふりをした警察が、張り込みに来た。

水色のダウンジャケット。THE NORTH FACEの偽物。

50代半ばの、どす黒く日に焼けた、いつも小さな丸型サングラスに、半分に焼け顔の刑事だ。

馬鹿なステッキを持って、歩く時の姿勢は気持ち右側に傾いている。

田舎の親父丸出しだ。

 

 

 

*1:この愚かな爺さんは、最低の人格者である。この伝兵衛によるトイレを汚す行為は、役所の職員にはすっかりばれていることを伝兵衛は知らない。