誣告の伝兵衛。≪小説・新連載vol.15≫
あの野郎。
全く。まだ来やがるぞ。
よし。誣告だ。
例のように。
駆け付けた刑事たち。
まずは、あの野郎が閉館時間に出てくるのを、図書館前のバス停に張り込んでいた、口を尖らせた約160cmの短髪色黒の男が、あの野郎が通る道を先回りするような形で、さっそうと歩く。
そのあとを歩く、あの野郎。
すると、後ろから歩いてきたあの野郎に気づいた、口を尖らせた約160cmの短髪色黒の男が、ピタッと立ち止まる。
あの野郎も、口を尖らせた約160cmの短髪色黒の男に対する正当防衛の意味で、同じくピタッと立ち止まる。
それが、約1分間。
しびれを切らした、口を尖らせた約160cmの短髪色黒の男が、次の信号まで歩き出す。
あの野郎も、歩き出す。
すると、また、口を尖らせた約160cmの短髪色黒の男が立ち止まる。
これを5回ほど繰り返す。
こんなバカなやり取りを繰り返しながら、タバコを買うために、サンクス前まで行くと、今度は、矢吹ジョーみたいなコートを着た男たちが5人、サンクス前でタバコを吸っている。
一人は、矢吹ジョーみたいな、ブラックのコート。ポマード。50代。
(以下、矢吹ジョーみたいなコートを、「矢吹」と略す)
一人は、グレーの矢吹。40代。
一人は、クリームの矢吹。30代。
一人は、チョコの矢吹。30代。
一人は、ブルーの矢吹。20代。
あの野郎は、間髪入れずに一瞬で、「カラフル矢吹5兄弟」とあだ名をつけた。
カラフル矢吹5兄弟達は、あの野郎の姿を見た途端、コートと同様、顔色を変える。
まさか、あの野郎が、あの野郎の家から反対方向にある、図書館から約100メートル離れた、サンクスまで来るとは思っていなかったからだ。
色とりどりな5兄弟達が、いっせいに早歩きをしだす。
あの野郎は、その後を、同じく早歩きで追いかける。
いわば、あの野郎による、逆尾行だ。
その途中、さきほどの馬鹿なやり取りをしていた当事者である、口を尖らせた約160cmの短髪色黒男が電柱に隠れている。
「張込み・尾行はおやめください。」
あの野郎は、口を尖らせた約160cmの短髪色黒の男の前まで行くと、こう注意した。
口を尖らせた約160cmの短髪色黒の男は、息を呑んだ。
あんなけ頭がおかしいと思っていた奴さんが、驚くほど丁寧な言葉遣いをしたからだ。
しかも、気品さえ漂っていた。
「カラフル矢吹5兄弟」逆尾行の話に戻ろう。
カラフル矢吹5兄弟は、やっとの思いで、約100メートル先の公立病院の裏玄関の前まで付く。
公立病院の2階の飲食スペースが、病院に頼んで、あの野郎の監視本部を置かせてもらっている場所なのだ。
「はあ、はあ、はあ、はあ」
50代のブラック矢吹と40代のグレー矢吹は、すでに息があがっている。
チョコの矢吹が、真後ろにいるあの野郎に気づかずに、blueの矢吹に得意げに述べる。
「あいつこの辺もたまにうろちょろしているんだ。」
こう言った途端、真後ろにいるあの野郎を見て、ビックリ。
血相を変えて、病院の裏玄関の中に入っていった。