誣告の伝兵衛。≪小説・新連載vol.21≫
おらだ。
いやぁ、最近、例の、偽物の「THE NORTH FACE」水色ダウンジャケットをいつも着やがり、グラサンをかけた、いつもニヤケたスケベ顔のどす黒い日焼け親父が、「THE NANIKUWANU(何食わぬ) FACE」で毎日1階の職員の方と何やら話してやがる。
その親父の高笑い声と言ったら、なんだあらぁ。
「ひゃっはっはっはっはっはっはっはっはっはぁ~~」
朝の10時に、60親父の、かん高い声での馬鹿笑い。
何がそんなに面白ぇんだ。
この馬鹿野郎が。
おらが言うのもなんだけど、下品極まりねぇ笑い方だな。
公共の施設内で、あんな馬鹿笑いをするってのは、狂気の沙汰だな。
それに、もう春だからよ。
その馬鹿みたく分厚くて、馬鹿みたいな水色のダウンジャケットはやめろ、この野郎。
よっぽど気に入ってんだな。
インナーはどうなってんだ、この野郎。
インナーにも気を使ってんだろうな。
アウターでごまかそうとしても、そうはいかねぇからな。
それによ。
その親父、なんかティッシュを丸めたゴミを、馬鹿な投球フォームをして、1階の廊下の端に思いっきり投げ捨ててやがったぞ。
トチくるってやがるな。
なんか、おら、気分が悪くなってきたな。
自分と同類の、ある意味野生の凶暴なイタチのような他人を見ることで、強制的に内省させられるような感覚に陥る、伝兵衛。
伝兵衛にとってのイタチごっこが、始まる。