誣告の伝兵衛。≪小説・新連載vol.29≫

あの野郎と当直連中のお話し。

あの野郎は、開館時間に入り、閉館時間ぎりぎりまで勉強することがある。

そのせいで、利用者の追い出しを担当している市役所の当直連中は、いつもヤキモキしている。

そこで、当直連中は、市役所職員、図書館職員と連携し、手分けして、あの野郎を1日中監視してやろうと考えている。

まずは、その一人、アザラシみたいな顔をした50代のバケットハットが、あの野郎が館内に入ったことを確認すべく、開館後すぐに、あの野郎の指定席を廊下からのぞき込む。時には、のぞき込むことが自分の仕事だと思い込みすぎて、隣にあの野郎がいることにも気づかずに、のぞき込むことがままある。 過酷な環境に生息する本当のアザラシだったら、そんな間抜けなことは絶対にしないのだが。

お次は、午前中1階に常駐し目を皿のようにして見張っている御用聞きの市役所職員。親しい市役所利用者と談笑し、馬鹿みたくでかい声で高笑いをする。この職員の声は、まるでコントラバスのように通る通る。そのため、2回の図書館にいる利用者たちは、このコントラバスの馬鹿笑いの囚われの聴衆となる。このコントラバスは、あの野郎がタバコ休憩に行くために1階の廊下を通ると、1階にある電話で宿直室に連絡をする。