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誣告の伝兵衛。≪小説・新連載vol.31≫

おら、なのか?

そうだ。

おらだ。

伝兵衛だ。

おら、刑務所から出所した際に、刑務官から、もう2度と誣告すんじゃねえぞと言われた。

そして、図書館の館長・副館長と、2度と自習室内に入らないことを約束した。

だから、おら、自習室には入れない。

でも、あの野郎のことは気になる。

そこで、3日前にもあの野郎が居やがるかどうかを確かめるために図書館に行ってやったら、あの野郎、未だ居やがるぞ。

いやぁ、大した霊だ。あらぁ。

止められているけれども。

やっぱり。そうだ。

誣告だ、誣告だ。

 

警察は、虚偽告訴罪で一度伝兵衛を逮捕している。

そして、送検までしている。

さらに、訴追され、伝兵衛は実刑を受けた。

にもかかわらず、「毎日あの野郎が自習室で勉強しているのはおかしいぞ」と、なんだかよくわからないことを言って通報してくる伝兵衛のことを、もはや愛しいとさえ思ってきた警察。

そして、あの野郎の事を、小生意気で馬鹿な無職野郎と、ムカつき、高をくくっていた警察。

ここに、伝兵衛と警察との利害関係が一致した。

そこで、警察は、この伝兵衛の虚偽告訴を利用しようと考えた。

つまり、伝兵衛の虚偽告訴を、形式的には善意の市民からの通報として処理をすることで、自分たちは、無辜の民であるあの野郎に対する図書館・市役所内での張り込みという、違法な任意捜査をすることができる口実にしようと考えたのだ。

あの野郎は、伝兵衛と警察の鬼畜の所業を決して許さない、でも、これも社会の厳しさなのだと、割り切っていた。

そして、今自分が抱えている悩みのすべては、司法試験に合格することによって解決されるのだ。

と、あの野郎は、純真無垢に信じていた。

スタンダール『赤と黒』の主人公ジュリアン・ソレルのように。