誣告の伝兵衛。≪小説・新連載vol.10≫
あの野郎のターン。
思えば、あの野郎も大変だ。
馬鹿な爺さん、1階喫茶店の関係者、図書館職員、市役所職員に、目をつけられて。
図書館でただ単に勉強をしているだけなのに。
ある司書は、こういった。
「お前が一番不審者なのに、不審者と思われていることをわかってないのか、あのバカ」と。
ひどいこと言うなぁ。
かわいそうに。
上品そうな顔をして、言うことは般若のごとし。
恐ろしいな。
ある20代の短髪自転車男。
細目。約165cm。
あの野郎を尾行するために、1日中、図書館の中で張り込んでいる。
閉館ぎりぎりまで、図書館のソファーで読書ざんまい。
帰りは、あの野郎を尾行するために、閉館時間を過ぎてもまだ図書館入口であの野郎を待ち受けている。
あの野郎が自転車置き場で自転車の鍵を開けていると、自分の自転車があるにもかかわらずゆっくり歩いて自転車置き場を通り過ぎる。
あの野郎は、その光景を見ている。
すると、30メートルぐらいゆっくり歩いた後、また、ゆっくり歩きながら自転車置き場に戻ってくる。
あの野郎は、警察に通報する前の最後の確認の意味で、声をかける。
あの野郎が声がけをするときは、重大な覚悟をしている時だ。
すると、やっとあの野郎に背中を押されるように、自分の自転車の鍵を開け、ゆっくりと自転車を押しながら帰ろうとする。
自転車には絶対に乗らずに、ゆっくりと自転車を押しながら帰る。
あの野郎は、ぴんときた。
自転車に乗らずにず~と押している奴は、自分の家とは反対方向に向かっている奴だと。
自分が尾行されたくないからだ。
もし尾行されても、尾行している奴はず~と歩かなければならない。
長い時間同じ奴から尾行されても、いつでも後ろを振り返って確認できる。
それに、自転車に乗ってしまうと、後ろを振り返るのは大変。
自転車に乗らずにこれでもかというぐらいにゆっくりと自転車を押すことによって、自分を尾行する者を焙り出しているのだ。
何焙煎なのか?
あの野郎は、正当防衛行為をするという、重大な決意をした。
中国人みたいな顔をした、30代の男。
真っ黒に日焼け、いつも黒色のジャンバー。
1日1回1階をうろちょろ。
だから、あの野郎は、こいつの事を「ワンワンワン」ってあだ名を付けたとのこと。
50代後半。男。警察。
丸いグラサン。
THE NORTH FACEダウンジャケットの使い手。
水色と黄色の2種類を交互に着てくる。
だが、2着とも偽物だ。
その偽物を。
「THE NANIKUWANU(何食わぬ) FACE」で、着てきやがる。
1階の喫茶店で、女刑事と打ち合わせ。
45の、黒髪、薄毛、約175cm。男。
ネイビーのフード付きダウンジャケット。ショルダーの部分が黄土色。
尾行要員。